2019年1月11日金曜日

【ネタバレ注意】狼と香辛料XXI Spring Log IV感想 + Spring Logについて

2019年1月10日に発売された狼と香辛料21巻の感想(まとめ)を書いていきます。
そもそも狼と香辛料の原作についてちゃんと記事を書くこと自体初めてなので、先にSpringLogとはどのような物語なのかというところから話していこうと思います。

以降ネタバレ注意です。

◆狼と香辛料 Spring Log
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記念すべきSpringLog1巻

狼と香辛料SpringLogシリーズは、原作10周年を記念して連載が始まった狼と香辛料の正当な続編です。正当な続編なのでナンバリングは通しの18巻からスタート。SpringLogとしては現在4巻まで発売しています。

狼と香辛料は17巻で一旦の完結を迎えました。ロレンスとホロが結婚し、ロレンスの「自分のお店を構える」という夢をホロの故郷ヨイツにも近いニョッヒラで叶えます。お店の名前は、湯屋「狼と香辛料亭」。

SpringLogは、そこから10年ほど経った2人の物語が中心になっています。その間に大きく変わったことは、ホロとロレンスの娘であるミューリと湯屋の経営を一緒に支えてくれていたコルの2人がいなくなったこと。この2人については別シリーズ「狼と羊皮紙」で語られます。

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ミューリとコルが主人公 3巻まで出てます

湯屋の経営も軌道に乗り、大部分はホロとロレンスの幸せな夫婦生活を描くものになります。 (台所番のハンナさんはずっといますし、SpringLogの途中から新たな従業員も増えますが)

本編のように長い旅をすることもなければ、破産しかけたり命が脅かされるような事件も起きません。勿論ちょっとした事件はあったりしますが、昔を思えば平和なものです。
「幸せであり続ける物語」がSpringLogのキャッチコピーなのですが、本当にその通りの物語です。

平凡だけど幸せな毎日。しかし、それこそが本編から続く逃れられない問題と結びつきます。

それは、「ホロの寿命」です。

この先何百年生きるか分からないホロは、どうしたって未亡人になります。ロレンスはただの人間です。
ですが、その事実については2人ともこれまでの旅で覚悟を決めています。覚悟の上で、一緒にいれる時間を大切にしようとしています。

ホロにとって1番の問題は、ロレンスの死後長い年月を経て「記憶が風化してしまう」ことでした。

幸せな毎日だけど、平凡な毎日。あっという間に過ぎ去ってしまい、あのとき何をやっていたのか、どんな気持ちだったのか、きっといつか忘れてしまう。そんなことを思い、ホロは憂鬱になっていました。

これは、読者である私にとっても同じでした。ホロの気持ちを思うと、儚さや焦燥感が心の隅にありました。

私は「人ならざる者」が好きなのですが、人間と人外がつがいになる話はあってもここまでリアルな夫婦(日々の生活、湯屋としての二人三脚での経営)の話は中々ないのではないかと思います。(知識不足なだけなので、もしこのような物語があれば教えて欲しいです)
1人になる寂しさより、記憶が風化する焦り。人ならざる者にとっての価値観、わかるわけもないのですが、ホロをみていると「そうだよなあ、つらいよなあ。。」と共感できてしまいます。

そんな焦燥感を拭い去ってくれる出来事が、SpringLog2巻で語られました。章名は「狼と香辛料の記憶」。
ホロの1人称(!?)で語られるこの話は、狼と香辛料の全てといってもいいと私は思います。ずっとホロとロレンスを見てきた読者にとって、きっと納得できる話だと思います。

ロレンスが一生懸命ホロのために用意した羊皮紙とペンとインク。これでホロに「毎日の出来事を書き溜める本」を書いていくことを勧めます。本のタイトルは「狼と香辛料」。

私たちは、ホロが書き留めた本を読んでいます。


◆狼と香辛料 Spring Log 4巻
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表紙エモすぎワロタ

というわけでここからは新刊の感想です。

ホロとロレンスが旅に出ます。
これまでの流れからすると、え?ってなりそうですが、これは3巻の最後に2人で決めたことです。ロレンスは湯屋を出たミューリとコルがとにかく心配なのですが、湯屋を空けることとホロに心配をかけたくないため我慢していました。
そこでなんとホロが旅に出ようと提案してくれます。「半年程度の旅なら大丈夫じゃろ」
詳しくは3巻参照です。


【狼と湯煙の向こう】
1章はセリムが語り部となっていて新鮮です。セリムは狼と香辛料亭で働いている狼の女の子です。なぜ働くことになったのかは1、2巻で語られます。
旅支度をするホロとロレンス、そして2人がいない間の切り盛りを任されたセリムがあまりの重圧に落ち込んでいるという場面。
セリムは2人に大恩があり断るわけもないが、真面目で気弱な性格のため自分に務まるか不安でなりません。旅支度をする2人をみてほっこりしつつも、早く帰ってきてほしいと言えずにやきもきしています。セリム視点でホロとロレンスを見ると本当に間近でいちゃいちゃしているのが伝わってきます。多分セリムも今風に言うと「は~~~~なにその絡み、てぇてぇ~~~すこ」って感じになっているのですが、真面目なのでそんなことは言いません。

ホロもロレンスも旅にそれぞれの目的(ホロは仲間の手がかり探し、ロレンスは湯屋仲間からの依頼消化)があるのですが、それは言ってしまえばダミーで自分のためではなく相手のためだった。というお話。
ロレンス「ホロが本当は仲間を探したいのに俺を思ってやめようとするだろうから、依頼をこなすという口実があれば気兼ねなく行動できる」
ホロ「あやつ村の頼みをこなしたいのに、わっちのためにやめようとするじゃろうから、わっちが仲間を探したいといえば旅を続ける気になるじゃろ」
全く同じこと考えててわろたオチ。てぇてぇ~

そんな2人を見てセリムは笑ってしまい、今までずっと言えなかった「早く帰ってきてくださいね」がすっと出ました。セリム、ポジティブになれた!


【狼と秋色の笑顔】
続いて旅に出たばかりの道中のお話。
支倉先生、本当に読者が求めていたものを書くのが上手いと思いました。
初っ端からこれからの旅についてやんややんや言う合う2人。それは昔私たちがずっと見てきた2人の旅の道中のシーンそのものでした。あまりの懐かしさに涙が。。

腕が訛って火を熾すのにも苦労したり、道に迷ってしまうロレンスを尻目に物語は進みます。

ここで驚愕の事実が発覚します。
なんとホロは「虫を食う虫」が大の苦手だったのです。虫を食う虫というのは、虫に寄生する寄生虫のことです。
糸が垂れ下がった蜂をみて、糸を寄生虫と勘違いしたホロが「ぎゃーーーー!」と叫んでロレンスにしがみついて本気で怯えます。ぎゃーて。。(かわいい)(乙女)(天下無双)

これはロレンスも初めて知ったらしく、”旅はいつも驚きの連続で、人の意外な面を明らかにする” と旅のよさを語ります。かっこつけたこと言っていますが、確実にロレンスは怯えてすがるホロに興奮してます。
>ロレンスは、あと軽く百年はホロのことを愛せると確信した。
これは引用ですが、軽く百年という言い回しがとてもいいですね。

ちなみに糸の正体は、おそらく密漁で巣を見つけるためのものだろうとのこと。そして2人は蜂を追って巣を見つけ、ぶんどって蜂蜜をゲットします。(ロレンスが巣を取りに行く直前にホロが後ろから抱きついているシーンの挿絵が最高です)
次の章の話になってしまいますが、ホロはこの蜂蜜と葡萄酒を混ぜてお手製の蜂蜜酒を作り、道中ぺろぺろ舐めて酔っぱらっています。おいしそうだな~

やっぱり2人には旅が似合うし、旅って楽しい。たった1話で存分にそう思わせてくれる、懐かしくも新鮮な素晴らしい旅の始まりでした。


【狼と森の音】
あまりの旅の楽しさにウッキウキのホロ様、楽しかった出来事をたくさん本に書きすぎてインクを使い果たしてしまいました。(かわいい)(お茶目)
仕方なく遠回りして近くにある旅籠に寄って筆記用具がないか聞いてみることに。

少しだけ筆記用具はあったが、少しだけだし今は価格が高騰していて買うのも困難とのこと。ちなみに価格が高騰している理由はコルの影響で、聖典の俗語翻訳が進められているため。詳しくは狼と羊皮紙を参照。

この章は、狼と香辛料では割とある「通りかかった村の揉め事をホロとロレンスが解決する」タイプのお話。褒美は少ないながらも紙とインク。

これまでのSpringLogは基本的にニョッヒラの中だけの話でした。しかし、世に出ると色々な事象や事情があることに気づく。そしてどうにもならないこともある。そんなことを強調しているように思いました。

しかしホロとロレンスにかかれば、苦戦するものの解決策を導き出せてしまいます。
村の問題はざっくり「お金が欲しいが森を切り倒したくない」というもの。そこで最終的に木のコブからインクを作れることに気づき、インクなら高値で売れるし木そのものを切る必要もなく万事解決。ホロのインクもたくさん!やったね!
ざっくりメリットを上げましたがこれだけじゃなく細かいいろんな条件を同時に解決する案で、インクの伏線もありつつ、完成度の高いお話でした。


【狼と旅の卵】
ようやく最初の大きな町についた2人。港町アティフはコルとミューリがすったんもんだあった町でもあり、コルとミューリは神のように崇められています。
そんなことは知らずの2人ですが、まずコルとミューリが描かれた絵画を持つ聖職者に出会います(ホロがミューリと間違えられたため)。

コルとミューリが描かれた壮大な絵画を見て、ホロに電撃が走ります。そう、「記憶を風化させない」ことにおいて、絵画は本の上位互換ともいえることに気づきます。そこに描かれているのが自分の娘ならなおさら衝撃でしょう。
ホロは自分とロレンスの絵を描いてもらいたいとやっきになります。しかし、この時代の絵の具は超高級品。ロレンスには到底手の届かないものでした。それでも2人は希望を捨てず、少しでも貯金していくことに決めました。

なんと、ホロ様がバイトをします。

まずパン屋の看板娘。パンにつられました。
しかし接客業など勿論初めてのホロ様、人見知りでもあるので愛想も使い果たし死にかけます。甘えられるのはロレンスだけ。めちゃくちゃ甘えます。

次は「かきまぜ娘」。麦の品質を維持するためにかきまぜる仕事。こちらは割と性に合っていたそうで、同僚の娘たちとも仲良く歌ったりしながら仕事しています。(かわいい)(えらい)

ロレンスはというと、頼まれごとの仕事をしつつ、賭博をします(!?)。といっても勝算はありましたし、賭け金も少なめ。昔のように全財産をはたいたりしません。成長しましたね。。

ところが、コル気取りの勘違い司祭野郎が賭博を取り締まろうとしました。実際には鰊の卵の取引所なので賭博ではないのですが、実質賭博みたいなもんとして取引の停止を命令。

困ったことになりましたが、ここもホロとロレンスの協力により解決。ついでに取引所に司祭の絵画をかざるという交渉におけるダメ押しの案を出し、その絵画にホロとロレンスも描いてもらうことに。ちゃっかりしてますね。解決する際にプラスアルファでどんどん利益を乗せていくのがロレンスの才能だと思います。
ホロは本当に嬉しそうでした。ホロにとって、ロレンスと共に生きた証を色んな形で残していくことが何より大事なことなのです。


【狼ともうひとつの誕生日】
最後は過去に戻り、コルとミューリが狼と香辛料亭にいたころの短いお話。
狼と香辛料亭の10周年、そしてミューリが10歳になり大人の女性としてのお披露目をお祝いする宴でした。
ミューリ傭兵団のルワードも出てきたりして、こうゆう場には絶対駆けつけてくれるんだなとほっこり。
コルとミューリの会話がメインでしたが、ここでミューリがコルに対する思いを確かなものにしたんですね。。ミューリ、がんばれ!


【4巻を通して】
旅の楽しさ、面白さを再確認させてくれました。
しかしこれまでの旅とは明らかに違うことがあります。それは帰るべき場所があることです。その事実のおかげで、旅とはいえどこか穏やかな気持ちで読むことができました。

また、今まで少ない手紙でしか聞くことがなかったコルとミューリの話が、実際の町でダイレクトに伝わってきます。狼と羊皮紙も読んでいるとより楽しめるかと思います。※勿論読んでいなくても全然問題ないです

正直SpringLogは基本いつ終わっても違和感のないような話が続いていて不安だったのですが、旅のおかけでまだまだ先があると確信できるのがいいですね。

1~3巻とはガラっと変わった感もありつつ、2人が熟練の夫婦であることや、「記憶」を常に意識している点は変わらないなと思います。昔の大冒険と違い、ちょっとした旅行に近いものだと思います。決して無理はしない、2人はもう幸せなのだから。


◆余談
先日、2019年発売予定の「狼と香辛料VR」を記念して、狼と香辛料×フォークトロニカをテーマにしたDJmixを公開しました。

【狼と香辛料VR発売記念】狼とfolktronica v2 (HokBoy's spice and wolf DJmix)


version2なのは6~7年ほど前に一度同じテーマで作ったことがあるからです。一応mixcloudの方に残っていますが、正直出来がいまいちです。それに比べると、流石に成長したなあと思います。

よかったら旅のお供に聴いてくださいね。

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